日本酒を選ぶとき、お米の品種や精米歩合、酵母の種類を気にする方は多いかもしれません。でも、「そのお酒がどんな容器で育ったか」に注目したことはありますか?
私たち人間も、住む環境によって性格が変わるように、日本酒も「育つ環境(容器)」によって、その味わいや表情がガラリと変わります。
今回は、日本酒造りで使われる3つの主要な容器「タンク」「木桶」「甕 」にスポットを当てて、それぞれの環境がお酒にどんな魔法をかけるのかをご紹介します。
お酒が育つ「2つの家」
まず知っておきたいのは、日本酒造りには大きく分けて2段階の「家(容器)」があるということです。
- 酒母(しゅぼ): 赤ちゃん酵母を大切に育てる「保育器」のような小さな容器。
- 仕込み(もろみ): 大人になった酵母がお米をどんどん発酵させる「大きな家」のような容器。
通常は、小さな容器で酒母を造ってから、大きな容器へ引越しをさせます。このそれぞれの段階で、蔵元はどんな素材の容器を使うかを選んでいるのです。
現代のスタンダード「タンク(ステンレス・ホーロー)」
~清潔で管理が行き届いた、最新設備のマンション~
現在、最も多くの酒蔵で使われているのが、ステンレスやホーロー(鉄にガラスコーティング)のタンクです。
表面がつるつるしていて雑菌が住み着きにくく、非常に衛生的。外から冷やしたり温めたりといった温度管理も精密に行えます。
この容器で育つお酒は、「クリアで綺麗」な味わいになります。容器自体の匂いやクセがつかないため、お米本来の味や、酵母が作り出すフルーティな香りを、そのままダイレクトに表現できるのが特徴です。
自然の息吹を感じる「木桶(きおけ)」
~木の香りと温もりに包まれた、ログハウス~
杉の木で作られた巨大な木桶は、古来からの伝統的なスタイル。近年、この木桶の良さが見直され、復活させる蔵が増えています。
木は呼吸をします。わずかな通気性があり、木の繊維の隙間には蔵ごとの微生物が住み着いています。これが複雑な生態系を生み出します。
最大の特徴は「香り」と「複雑味」。杉の清々しい香りがお酒に移り、森の中にいるような心地よさを与えます。また、自然な微生物の働きで、単なる綺麗さだけではない、深みのあるどっしりとした旨味が生まれます。
幻のまろやかさ「甕(かめ)」
~ゆっくりと時が流れる、土壁の古民家~
焼酎ではおなじみですが、日本酒で使われるのは非常に珍しい「土(陶器)」の容器です。
厚みのある土の容器は保温性が高く、温度変化がとても緩やか。また、丸い形状が内部で自然な対流(液体の回転)を生み出し、酵母にストレスを与えません。遠赤外線効果があるとも言われています。
キーワードは「まろやかさ」。カメで育ったお酒は、角が取れてとろりとした舌触りになります。攻撃的なところがなく、優しく包み込むような味わいになるのが特徴です。
多くの日本酒は、
「ステンレスの小部屋(酒母)」→「ステンレスの大部屋(仕込み)」
というルートで造られますが、こだわりのお酒の中には、
「木の小部屋」→「木のログハウス」(オール木桶仕込み)
「ステンレスの小部屋」→「土の古民家」(カメ仕込み)
といった、ユニークな引越しを経て私たちの手元に届くものがあります。
これからは日本酒を飲むとき、ラベルに「木桶仕込み」や「甕(かめ)仕込み」という文字がないか探してみてください。そのお酒がどんな「家」で育ってきたのかを想像すると、いつもの一杯がより味わい深くなるはずです。
